夜行列車弁当旅

私は列車旅が好きだ。今みたく外の風景を楽しみながら、駅で購入した弁当を開く。
最近は妻に健康を心配されているので精進弁当を選んでみた。
普通に食べると味気ないそれは、窓の外に広がる田畑を眺めながらだと『あの場所で収穫されたものかもしれない』と想像が働き、味わい深くなる。
「ご一緒してよろしいですか？」
素朴な青年が私の対面に座った。彼の手にも精進料理。それと麦とホップが握られている。
「お近づきの印に」
彼は私に水の入ったコップを手渡す。飲み物ならもう間に合っているが…
彼は窓を開け、夜空に手を伸ばすと近くにあった星を掴んだ。
それを麦とホップと一緒に両手で擦りつぶす。彼の手のひらから零れ落ちたものがコップに入ると水がビールへと変化した。
「手作りのビールです」
彼は手品師か？そのビールを口に含むと雨にも負けず風にも負けずの強い生命力を感じた。
このビール、出来れば生前に飲みたかったな…