Barともしび

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帰り道を歩いていると、ふとその灯が目に入った。
こんなとこに店なんかあったっけ。僕はその暖かな灯に吸い寄せられるように店の扉を開けた。
「Barともしびへようこそ」カウンターの中のマスターが言った。
「ともしび?」
「はい。ここを訪れる方の不安や哀しみに小さな灯をともしたいという思いで営業しております」
「すいません、ちょっと覗いてみただけで」
ことりとカウンターにグラスビールが置かれた。
真っ白な泡に漆黒の闇のような色のビール。よく見るとその闇の中で小さな光が明滅している。
「座って一杯どうぞ」
「いやでも」
「あなた、会いたい人がいるのでしょう?」
その言葉にどきりとした。
・・・会いたい人。
僕はカウンターに腰かけ、その不思議なビールを口に含んだ。
「ごめん待った?」
懐かしい声に振り向くと妻がいた。
「ホタルビールのお味はいかがですか?」マスターが微笑む。
その日は妻の命日だった。
ファンタジー
公開:23/10/15 19:13
更新:23/10/15 20:18

杉野圭志

元・松山帖句です。

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