金紙とクレヨン

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『おかあさん、ありがとう』
クレヨン描きのカードに貼り付けてあったのは、折り紙のビールジョッキだった。
母の日の定番はカーネーションだろうに。さすが我が子、実に話が分かる。

ハサミで切り抜かれた、少しいびつな持ち手に工作力の成長を確かめつつ、ミシン目の付いた銀のジョッキをめくると、八割方が鮮やかな金に染まった。
お店で出てくる様な生ビールだ。香りや苦みまで伝わるほどの出来栄えに喉が鳴る。色合いも質感も、裏紙で表現された泡のかさも申し分ない。
いつか雑誌で見て、飲んでみたいと言ったクラフトビールだろう。セットに一枚ずつしかない宝物をいっぺんに使った、最高に贅沢な一杯に唇を寄せる。
「……美味しい。ありがとう」
紙と糊の匂いが鼻に抜け、本物のアルコールの様にツンと沁みた。

この先何年経っても、一緒に酌み交わす日なんて来ないでほしい。
ごちそうさまの合掌と共に、此岸の我が子の健康を祈った。
その他
公開:23/10/17 11:38
更新:23/10/17 13:34
クラフトビールコンテスト

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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