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「おきゃえり~」

ほんのりと頬の赤い妻に、ふにゃりと出迎えられる。

「あっ、抜け駆けしたな~?」

悪戯っぽく俺が言うと、妻はぶんぶん首を横に振る。仕事が忙しく、最近晩酌を控えていた俺に、妻も合わせてくれていたのだ。

「縫い物してたの~」

「縫い物?」

「縫い針…じゃなきゅて、酔い針で」

リビングに入ると、黄金色に輝く針があった。

「あにゃたもこれでビール職人!…この針で刺繍した枕で寝ると、夢で美味しいビールが飲めりゅのっ。これにゃら、あなたも飲めるれしょ~?」

呂律が回っていなくて可愛い。手渡された枕を見ると、歪なビールジョッキが刺繍されていた。

「この針ねぇ、ひと針刺す度にビールが喉を通っていく様な感覚になるのぉ。酔って刺繍が曲がっちゃったぁ」

その夜、俺は妻と晩酌する夢を見た。夢の中のビールは、喉越しが優しく、マイルドな苦みと深い甘みが最高なビールだった。
その他
公開:23/10/08 09:44

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

少し早いですが、よいお年を!

 

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