物忘れの原因

最近、父の物忘れが酷い。認知症を疑い指摘すると激怒する。
これはマズい…そう感じた私は父を医者に診せた。
「お父様ですが、認知症の心配はありません」
ほらな。と、ドヤ顔の父。
「ただ、記憶の蓋にひびが入っていました。物忘れの原因はこれですね」
記憶の蓋？
首を傾げる私と父。その父の頭から、カツーンと蓋が床に落ちて来た。
「これです。見て下さい。この端の部分から亀裂が入っているでしょう？ここから記憶が漏れてるんです」
蓋を拾い上げ、説明してくれる先生。
先生はその蓋を机に置くと、傍にあったやかんの蓋を父の頭に乗せた。
「とりあえず、応急処置だけしておきますね」
金色にピカピカ輝くやかんの蓋。父のハゲ頭と相まって笑いを誘う。
噴飯物の見た目に普段の父なら激怒しそうなものだが、今日の父は何故かそれを黙って受け入れている。
「その蓋、感情の蓋にもなっている二重構造なんです」
納得の理由だった。