島ビールの味

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むかしむかし、盗みを働いた罪で南海の無人島に島流しに遭った男がいた。生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた男は死にものぐるいで井戸を掘り、飲み水を探し当てた。やがて男は粗末な掘っ建て小屋を建て、釣りや罠猟で食料を調達することを覚えるなど、ひと月もしないうちに暮らしの土台を築き上げた。何とか独りでもやっていけそうだ――そんな自信にも似た手応えを感じ始めていたころのことだった。ある日の昼下がり、男が椰子の木の下でうたた寝をしていると空から落ちてきた硬いものが男の頭を直撃した。男は余りの痛みに気絶しそうになったが、何とか立ち上がって落下物を確認すると、それは1本の缶ビールだった。見上げると椰子の実の代わりに缶ビールがたわわに実っているではないか。飲んでみるとフルーティーな味がする。ひょっとしてここは楽園ではあるまいか。そんな思いがよぎったのも束の間、男は浜辺に倒れ、二度と立ち上がることはなかった。
ミステリー・推理
公開:23/10/10 18:49

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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