グラスホッパー

ほろ苦い風薫る五月、泡雲に乗って空飛ぶグラスがやって来る。

「麦蝗（むぎご）だ、麦蝗が出たぞー！！」
秋一番の号令が駆け巡ると、麦畑は黄金に色めき立つ。
麦秋の頃、収穫間近の麦の穂を目指し、麦蝗の大群が空を渡る。クラフトビールに欠かせない蝗母（こうぼ）を作るバッタで、ホップ仕込みと呼ばれるこの地方の伝統製法だ。
白い泡に見えるのはガラスでできた彼らの翅だ。遠耳には炭酸の弾ける様に、近付くにつれ賑やかな乾杯の様に、翅や脚を響き合わせ、畑を跳ね回って麦芽を起こしつつ、蝗母を発酵させていく。

麦蝗が渡り終えた後、深まりゆく香りと色を楽しみながら穂上で熟成させ、いよいよ収穫の時を迎える。
金、赤、黒に染まった麦畑をビアガーデンに、歓声とジョッキの音がこだまする。
産地ならではの贅沢、畑から直接搾っていただく一番麦汁の生ビールだ。バッタの様に飛び跳ねたくなる事請け合いの、軽やかで豊潤な味がする。