泡と肌

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「お待たせしました、エールです」
「ああ来た来た。いいかい、ビールっていうのはね、入れる器で全然変わるものでね、エール系はこのチューリップ型のグラスがぴったりで――」
街コンで意気投合して入った二軒目で上機嫌で蘊蓄を垂れ流す男を、女はニコニコしながら見つめている。
「グラスっていうとガラス製を思い浮かべるだろうけど、陶器のグラスなら凹凸で泡がきめ細かく滑らかでね…」
言いながら男の視線が女のうなじや二の腕をなぞる。
「くびれのあるグラスなら香りがふくよかに、口元が広いと優しく…」
視線が腰に、唇にとせわしなく移る。
「お酒、お詳しいんですね」
もっと教えて貰えませんか…二人きりで、と囁くと男は舞い上がり「じゃあ個室のある僕の行きつけに」と会計を呼ぶ。
女はとびきりの笑顔を見せる。
「素敵。夢みたいな夜」
入れる器で全然変わる?その通り。
こんなに気づかれないなんて。

ねえダーリン。
ホラー
公開:23/10/09 23:38

詩のぶ

小説、詩、短歌、俳句、コピーなど、読んだり書いたりするのが好きです。ショートショートはこれまであまり馴染みがなかったので、ここで色々試しながら勉強できたらと思っています。
何か作るとtwitterで呟いてますのでよろしかったらそちらでも。

Twitter @shinobu_yomogi

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