宵待ちのガソリン

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上弦の月、男は途方に暮れる。ガス欠の単車を前にスタンドは遥か遠い。すると老人が声をかけた。
「もしやガス欠かい。それならそこのスタンドに行けばいい」
スタンド?と指差す方に、ビールスタンドがあった。
「そこのクラフトビールは絶品で、車バイクも喜んで飲むらしい。試してみるといい」
「どうも。気持ちだけ受け取るよ」と恐らくほろ酔いの老人に苦笑いした。
「人間もガソリン補給といって酒を飲むじゃろ。原理は一緒じゃ」と高笑いで去っていった。

瓶ビールを2本。飲みたい衝動を抑え、1本を給油口に差した。
えいとエンジンをかけると、ブルンと躯体は震えた。驚きつつも安堵し跨るとアクセルを握った。

様子が変だ。
前進はするが速度は出ず真っ直ぐに走れない。
まるで千鳥足みたく、くねくね揺れながら何とか家についた。
男はため息をついた。「お前…下戸だったんだな」
そして酒も飲んでいない男もすっかり酔っていた。
SF
公開:23/10/09 19:45
更新:23/10/10 06:20

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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