酔祭(よいまつり)

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子供の頃、父と連れ立って大麦神社の宵祭りへ行くと、ビール玉掬いをやるのがお決まりだった。
「母ちゃんには内緒だぞ」
囁く父と共犯の握手を交わし、浴衣の袂一杯掬ったビール玉を、帰宅後の台所で二、三粒転がすのが私の役目だった。

極小の丸グラスに封入された金色の種が、細かな気泡を立てながらぶつかり合い、玉の上部が白く色づけば飲み頃のビールになっている。
完成したビール玉の封を切り、一口分のビールをちびちび飲むのが父の役目で、今考えれば不公平な気もするが、ご満悦な父のほろ酔い顔が子供心に嬉しかったものだ。
転がす時間や角度、力の加減で泡のキメや喉ごし、ビールの味わいが変わるらしい。私は父からクラフトマンの称号を授かり、夏じゅう父の晩酌にこっそりビール玉を提供した。

大人になった今は私もビールの味を覚えたが、毎年お盆の時期はあの頃に戻って、赤ら顔の遺影に添えたビール玉と、ラムネ玉で乾杯している。
その他
公開:23/10/09 18:55
クラフトビールコンテスト

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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