造り手の味

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旅先でふらりと訪れた酒場。ここは、地元で造っているというクラフトビールが飲める店だった。
その時たまたま店に居合わせた、話好きの男性は、なんとこのビールの造り手だと言う。
「造り手ってのはな、みんな自分の美味いと思うもんだとか、好きなもんを、表現してるのさ。料理だって、歌だって。ビールもそうさ」
アッハッハと、調子に乗って自作の歌まで披露する彼の笑顔は、人を惹きつける魅力がある。まるでこのビールのようだ。
「ビールは好きかい?」
彼にそう聞かれ、普段飲んでいたビールの味を思い出す。すると、それが急に無機質に感じられた。
酒の入った頭ではビールの難しいことは分からないが、この人の造るビールは好きだ。そう、感じる。

結局、その日は深酒をして、ほとんど記憶が無い。せっかく彼の造るビールをたくさん飲んだのだが。
ただ鮮明に記憶に残るのは、彼のビールの、心踊るような味だった。
その他
公開:23/10/03 17:00
更新:23/10/04 11:58

お弁当係

2021年7月、投稿開始。
小説を読むのが好きですが、書くのも楽しそうで始めてみました。
読んでいただければ幸いです。
 

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