苦楽とビール

今宵、妻と特別なビールを飲む。夜の闇を抽出したような真っ黒な黒ビール。
この黒さは人生の苦みを象徴しているが、苦いばかりが人生ではない。ビールの底を見ると光の泡が立っている。
この泡、よく見ると私のものは高い泡で出来たビル群が映り込み、妻のものは低い泡で構成された家々が映り込んでいる。
光の泡が消えるのを見届け、妻は黒ビールを飲み干す。消灯は就寝の合図。泡の消えた黒ビールは寝酒にいい。
私はと言うと泡の残る黒ビールをちびちびと飲む。…苦いな。
だがこの苦みが大人の男の渋さであり、今日という幸せな日を迎えられた喜びでもある。
黒ビールの表面を見ると星屑のような泡が映り込んでいる。黒ビールの中の空は今日も晴天なり。
そうでないと困る。今日は娘の結婚式だったんだ。ハレノヒ以外は認めない。
宵にも酔った私は妻の飲み干した黒ビールの底に新たに灯る光を見つける。
新たな家庭の灯はきっと娘のものだろう。