オススメ

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 三十歳目前に失恋して、一人飲みに来た。
 こんな時に付き合ってくれていた友達は皆結婚し、今は別世界にいる。
 今までにない孤独感、焦り。自分がもっとキレイだったら、もっといい性格だったら。
 お酒が入るとその思いに拍車がかかる。
 フラフラ入った次の店には、無数のビールがあった。有名どころはもちろん、珍しいものある。
 選ぶ気力もなくてオススメを頼んだら、マスターはグラスに何かを注いでくれた。
 薄暗い店内に浮かび上がるような、明るい色合いのビール。一口飲むと、フルーティな味わいが口いっぱいに広がった。
 と同時に、なんだか自分に自信が出てきたのだ。
 私はセンスがいいし、仕事もできる、魅力的な女性だと。
「これはいったい?」
「特別なビールでしてね、飲むと自分に酔えるんです。ただ、飲みすぎには注意ですよ」
 翌日ひどい二日酔いで目覚めた私は、あれが現実だったのかすら分からないのだった。
その他
公開:23/10/01 23:15

藤原チコ

読むのも書くのも好きです。よろしくお願いします!

2022 ショートショート集『節目の一杯』をつむぎ書房より出版
2023 愛媛新聞超ショートショートコンテストにて「かぞくしんぶん」が特別賞に選ばれる
2024 第20回坊っちゃん文学賞にて「鯉のぼり」が佳作に選ばれる

発表し合える環境に感謝します。

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