天使の分け前

0
1

「樽に入れたお酒は蒸発して毎年数パーセントずつ減ってしまうんだ。その減った分を『天使の分け前』って言うんだよ。」
美味しくなるためには、天使がつまみ飲みする分のお酒が必要らしい。
「私は、天使の助けなんて要らないから全部手に入れたい。」
「そういうところ、可愛いね。」
ビールを片手に貴方は微笑んだ。
いつでも余裕で何だかむかつく。
大人な貴方に少しでも追いつきたくて、私も手元のビールをぐいっと飲み干した。…苦い。

空っぽになった部屋を見つめる。
お互いへの気持ちも、少しずつ天使が持って行ってしまったのかもしれない。
バレルエイジドビール。貴方がよく呑んでいた。樽によって様々な要素が絡み合ってできるから、同じフレーバーには二度と出会えない。
グラスを傾け、飲み下す。
シェリーの香りが鼻を抜ける。
一気に飲んでしまう悪癖は治らない。
でも、やっとビールの美味しさが分かるようになったよ。
恋愛
公開:23/10/01 22:45
更新:23/10/03 20:46
ラベル小説 コンテスト ショートショート クラフトビール

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容