髪も顔も声も全部

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「僕が捕まるとしたら、自分でビールを作ってしまった時だと思う。」
「なにそれ。」
と君は呆れたように笑った。
「クラフトビールは酵母によって違いが出て面白いんだ。桜の酵母で作られたものもあるぐらいでさ。」
「ふうん。ビール、本当に好きなんだね。」
髪の毛先を弄っている。またウンチクかとうんざりしてるのかもしれない。
「うん。最近では、この木の枝ビールになるかもなんて思いながら歩いてるよ。」
ふと顔を上げて君は僕を見つめた。
君の瞳にぼやけた僕が映っている。
こんなにまつげ長かったっけ。
「じゃあさ、私が死んだら骨をビールにしてよ。」
「え?」
「だって私の味まで全部覚えてて欲しいじゃない。」
「…縁起でもないこと言うなよ。」
絶対美味しいと思うんだけど、なんて言っていたずらっぽく笑っていた。

ある日、君は本当に骨になってしまった。
僕は、君と一緒に呑むビールが好きだったんだって気づいた。
その他
公開:23/10/01 22:09
更新:23/10/01 23:04
ラベル小説 コンテスト クラフトビール ショートショート

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