第９のビール

毎年、年末になると友人がドイツから帰ってくる。
その手には第９のビール。これが楽しみで私達は必ず集まるようにしている。
交響曲第９番・歓喜の歌。日本でも年末の風物詩に使われており、このビールを飲むとついつい第９のメロディを口遊む。皆が思い思いの楽器をエアで演奏する。
音楽学校時代の思い出がビールの泡のようにしゅわしゅわと弾ける。ビールみたく苦かった日々。あの時のコンクールを思い出すと今でも涙がこぼれてくるが、それをぐっと飲み干す。涙の塩気がビールによく合う。
さすがベートーベンの生まれ故郷、ドイツで仕込まれたクラフトビール。
音楽のように熟成されたこの味は、日本で作られるレコードやCDを使った味なんかと全然違う。
サブスクのおかげで全世界で作れるようになった第９のビールだが、生のオーケストラを聞かせ育てられた本場ドイツのホップはビールとなっても他の第９と比べ、音＆歴史の重みの違いが分かる。