現代人魚姫

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「人魚姫って今もいるらしいよ」

健斗は真顔でいう。

「へぇ…」
わたしは、バーの高い椅子を座りなおし興味のないふりをする。

仕事帰りの22時。

疲れたカラダにビールがしみる。

「現代の人魚姫ってさ、足も声も手にいれて人間と変わらないんだって。でも指輪を渡すと泡になって消えるらしいよ」

「結婚…できないってことかな」

質問には答えず健斗は無言でビールを流す。ごくりと喉仏が動いた。

ああくるなくるな。
お願いこないで。

わたしのことを救ってくれた王子様。

「結婚しない?」
彼の大きな目にわたしが映っている。
まさか今日だなんて。

「美しい」

と何度も褒められた声が出なくなった。

やめて。

出ない声のあいだにゆっくりと左指にピンクダイヤの指輪が侵入する。

気がつくとわたしは、健斗のグラスの中に溶けていた。

レモンと柚のかおりがわたしの足だった部分にからみついた。
公開:23/10/01 15:22
更新:23/11/19 17:22

だら子( 北海道 )

どうぞお手柔らかに!

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