本踊り

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秋祭りの季節がやってきた。
私が住む町では「本踊り」が行われる。この町に引っ越してきたころ聞き間違えかと思ったが、「ぼん」ではなく「ほん」が正しい。
盆踊りではメロディーが流れるが、本踊りでは何も流れていないことに驚く。だが、好きな本を持参して櫓の周囲に集まると、不思議なことに耳の中で、その本の朗読が流れ始めて自然に踊れるのだ。
本を片手に持ち、扇子を動かすように風流に踊る人、上下巻の本を両手に持ち、蝶のように舞って踊る人ーー思い思い本の朗読に合わせて踊る。静かに、まるで読書に耽るかのように。
私は、ショートショート作家のT先生の本を持って踊る。短編の小説が多いので一休みしやすい。長編だとずっと踊り続けてしまうから大変だ。
本好きの人たちがこの町にこぞって住む理由が、文豪ゆかりの地ということだけではなく、実は本踊りにあったのだ。
本踊りの終わりには「本と共に去りぬ」とアナウンスが流れる。
その他
公開:23/09/23 07:15
祭り 踊り 盆踊り 朗読 読書 小説

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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