タクシー運転手

勤めを辞めて妻も子もない。仕事をネット検索すると「高齢者長期間就業可の方」とある。
面接に行ったのはタクシー会社で時給は良い。身寄りがないと言うと「ぜひ」と雇用契約にサイン。タクシー車に案内され「下を脱いでスタンバイして」と言われ脱いで車に乗る。冷たいシートにガシャと固定され、ヘルメットとマスクをはめた。「出発」タクシーは動く。路傍の客に停まり客が乗るとタクシーは走り出す。
面接で言われたのを反芻した。
「客のアプリ注文に応じた完全自動運転だが法律上運転手同乗が必須です。運転席でマスクから流動食物を。排泄は大小とも座席が処理。音楽を聞いて眠ってもいい。ヘルメットでモニターします。昼夜運転してください」
最低三日の乗車が義務だが不自由ないので十日間も走り続けている。長時間労働ではと友人の弁護士に携帯で相談した。友人は「まるでロボットだね。ロボットの連続稼働は違反でなく訴えても認められないね」