家猫軒、本日も営業中につき

4
3

「こちら、本日のスペシャルでございます」
とばかりにコックさんが差し出したのは、ある意味夏の終わりの風物詩、路上のミンミン蝉だった。
朝採れほやほやで活きの良い蝉は、コックさんが咥えた口を離した途端、バタバタ悲鳴を上げて飛んで行った。
「ありがとう、ごちそうさま」
一応合掌して礼を述べる。コックさんは長い尻尾でお辞儀をし、満足げにニャアと鳴いた。

家猫が飼い主に獲物を持ち帰る事はままあるが、我が家のコックさんにとって、それは腕によりをかけたご馳走なのだった。
白い毛皮の、頭だけ帽子をかぶった模様があるからコックさん。道端でお腹を空かせていた痩せっぽちの子猫は、今や料理人らしい貫禄の大猫となり、日々の食卓を、時にギョッとさせつつ味わい深くしてくれる。

多種多彩なコックさんの『料理』に、同じメニューが並ぶ事は決してない。しかし自分は毎日同じネコ缶でご機嫌な、極めて注文の少ない料理店なのだ。
その他
公開:23/09/19 14:31
月の音色 月の文学館 テーマ:特別食堂

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容