リサイクル人間

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そろそろ儂は、この住み慣れた村を離れて、あそこに見える山の奥へと向かう。
老人を山に捨てる姥捨山の伝承が残っておるが、あれと似たようなことじゃ。けっして怖いことではなく、儂ら一族にとっては当たり前のことなんじゃ。
「土地に根付く」というが、あれは言い当て妙じゃ。儂は山へ行って土地に根付く。山に居座って数時間もすれば足から根が生えて山と共生する。そのあとは意識もなくなって瞬く間に木となり、生長して木に大きな実がなる。そして、実が熟したころに儂は再び生まれてくるんじゃ。
昔話で有名な桃から生まれた桃太郎は儂ら一族の遠いご先祖じゃ。桃太郎は実在しておった。
輪廻転生といえば高尚すぎるが、この土地に根付く儂ら一族は、ただ自然の営みに身を任せて循環するリサイクル人間のようなものじゃ。
巷ではSDGsとかいう言葉が流行っているようじゃが、すでに儂ら一族は実践しておった。
しばしのお別れじゃ。さらば!
その他
公開:23/09/18 06:04
老人 姥捨山 土地に根付く 桃太郎 輪廻転生 リサイクル SDGs

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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