夜の音

『教会の鐘が鳴った夜は絶対に外に出てはいけないよ。夜の教会の鐘の音はね、吸血鬼が結婚式を挙げている合図さ。そんな夜に外に出ようものなら、結婚式に参列中の吸血鬼に襲われてしまうよ』
私の住む田舎町では、大人がそう子どもに言い聞かせる。
大人も子どもも、教会の鐘の音の鳴った夜は家の鍵を閉め、絶対に外に出ようとしない。
おかしな風習ではあるが疑問には思わなかった。だってそれを話す大人も、自宅へと駆け込む大人も一様に真剣なのだから。
何でもこの町には昔、指名手配中の殺人犯が逃げ込んできた事があるらしい。
その殺人犯は夜に教会の鐘を鳴らし、町の人を集めようと画策したようだ。
だが集まってきたのは吸血鬼。その殺人犯は血を吸われ、ミイラとなった。
そんなミイラが今も教会に眠っている。
よほどその血が美味しかったのか、夜の鐘が鳴った翌日、ミイラの首元を見ると新しい噛み痕がいくつも増えている。