夜の音

帰宅しようとする僕を上司や先輩が引き留める。「今日も飲むぞ」と騒ぎ立てる。
「なら、私の行きつけの店に行こうじゃないか」
社長がそう言うものだから、帰るに帰れなくなってしまった…
そこは喫茶店だった。それも酒類を取り扱わない純喫茶。ここで飲み会？と皆が困惑する。
社長の行きつけの店。粗相があってはいけないと自然と静かになる。
カチャカチャ。こぽこぽ。
BGMもない店内に紅茶を淹れる音だけが響く。
なんか…いいな。昼間の喫茶店では味わえない、夜独特の空気に心が落ち着く。
「ダージリンのファーストフラッシュです。まずはそのまま、味わってみて下さい」
紅茶に詳しくない僕は店長の言葉に従う。
一口飲むと、緑茶のような爽やかさが仕事終わりの頭をスッキリさせてくれた。
３０分程で店を出る。僕らの手には紅茶葉の袋。
皆、今日はお酒より紅茶をもう少し飲みたい気分だった。
帰ったら、僕も淹れてみるとしよう。