夜の音

昔々、とある山奥に一人の老女が住んでおりました。
周りに家はありません。だからこそ、老女は山で仕留めた獲物を処理しては、その肉や内臓を家の前で干していました。
老女はマタギです。山の獣が人里に下りないよう、管理をしていました。
そんな老婆の家には時折、客人がやってきます。
山で道に迷ったり、獣に襲われ助けを求めてきたり、理由は様々です。
老女はそうした人達を家に入れては、山の外では高級とされる肉料理を存分に振る舞っていました。
そんなおもてなし精神が裏目に出たのでしょう…
良い肉を良い状態で提供する為、老婆は夜な夜な包丁を研ぎます。
それを見て、勘違いする客人。
夜の山へと逃げ出し、崖から落ちたり、獣に襲われたりと命を落とす事も多かったようです。
夜の山の危なさを知る老婆は勿論それを止めようとします。
が、包丁片手にそれをするものだから「山姥だ！」なんて言われ、人々から恐れられましたとさ。