香鈴

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ほら、振っても鳴らないだろ?
これは、見た目が風鈴にそっくりだけれど、我が家に代々伝わる「香鈴」と呼ばれる代物だ。
江戸時代に鍛冶屋の職人が作ったと聞いているけれど、詳しいことは知らない。縁起物だから大切にしたほうがいいと言われたことがある。
普段、風が通らない室内にいても、四季折々の香りを届けてくれる。
懐かしい思い出にひたっていると、まるで時空を越えてきたかのように当時の香りを運んでくれる。
少しだけ先の未来に幸運が訪れそうになると、何だかウキウキする香りが漂ってくる。
実は、良い香りだけじゃない。とんでもない異常なことが起こる前に変な香りがするんだ。
これまで二度の世界大戦や関東大震災が起こる直前、きな臭い匂いや血生臭い匂いがしたそうだ。こういう予知は辛い。香鈴が家宝であることに異論はないけれど、悪い出来事は事前に知りたくない。だから戦後、家の奥に仕舞ってあったんだ。よく見つけたね。
その他
公開:23/09/02 07:00
風鈴 江戸時代 鍛冶屋 縁起物 四季 香り 幸運 世界大戦 関東大震災 家宝

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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