触覚の男

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 耳の裏から襟足にかけてもぞもぞするので、床屋で丸刈りにすると、こめかみから耳の裏側をたすき掛けのようにハリガネムシみたいなモノが引っ付いているのに気付いた。鋏で切り取ろうとすると、刃先を避けるようにたわたわと動くし、やっと鋏んだと思った途端に電気的な衝撃が脳髄に響いたものだから、すっかり怖気づいてしまった。そこで慎重に手に取ってみると、確かにそれを触れている感覚があり、先端を目の前に伸ばしてみると、ビーカーを洗うときに使うタワシみたいなケバケバが生えている。そのケバケバを指でなぞるとアルミ箔を噛んだような不快感が脊髄を貫いた。
 普段は、この二本の触覚(と呼ぶしかない器官)を首の後ろへ隠し、一人になると自在に動かす訓練を続けている。
 精一杯伸ばすと60センチほどの長さがあるそれがもたらす感覚を表す言葉はないが、あえて言えば近未来の密度のようなものを感じる。
 きっと、わたしから始まる。
その他
公開:23/09/01 21:32
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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