夜の音

都会での暮らしは何かと気を使う。このマンションの暮らしなんて特にそうだ。
夜遅く、仕事から帰って深夜に洗濯機を回そうものなら下の階の住人から『洗濯機の音がうるさい』と苦情が入る。
夜遅く、仕事から帰って深夜に電子レンジでお弁当を温めようものならチーン！の音に隣の住人が怒りの壁パンチ。壁をどんと強く叩かれ、凄くびっくりする。
そんな悩みを朝、出勤前に管理人さんに吐露してしまった。
「変ねぇ…４０５号室のお隣さんと下の階って、今は誰も住んでいない筈よ」
じゃあ、深夜のあの苦情電話と壁を叩く音は一体何？
…もう無理だ。こんなところ住んでいられない。
私は荷物をまとめると深夜、人目を避けるようにマンションから逃げ出した。
ああ…弱っていたとはいえ、管理人さんに顔を見られたのはマズかった。
私の横を何台ものパトカーが通り過ぎる。検問が敷かれる前に、早くこの町からも出るとしよう。