恋愛買取

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「あの、こちらでよろしいですか?」
「どうぞお掛けください、今日はどうしました?」
「はい、あの……その、ええ……と」
 要領を得ない。だが、辛抱強く待つ。
 ──ああ、今日も暑くなるんだろうな。窓で切り取られた青空は澄み渡り、飛行機雲が細く糸を引いて走っていた。
「好き、なのに……、嫌いなんです」
 そこから彼女の独白が始まった。
 彼はいつも穏やかなのだが、たまにイライラして彼女に八つ当たりするという。
「私は……彼と向き合う時間が好きなんです。なのに、ああいうときの彼は」
 一語一句に毒づく。文脈に噛み付く。挙句の果てに、内容がないと言って彼女を否定する。
「もう耐えられません」
 彼女は──本は、涙を溜めていた。それから、毒を吐く彼が嫌い、と言葉をこぼした。腹に据えかね、家を飛び出してやったという。
 ですがね、ここは古本屋なのですよ。
「よろしいので?」
「未練はありません」
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公開:23/09/05 08:28
更新:23/09/05 09:11

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