夜の音

夜、何気なく壊れたピアノの鍵盤を叩く。
ポーン…
出る筈のない音がピアノから発せられた。
他の鍵盤も叩いてみる。試しに演奏してみる。何の異常もなく音は出る。最後まで演奏できた。
パチパチパチ…
さっきまで実家のピアノ室にいた私が、気が付けばジャズクラブにいた。
客は私の演奏に満足したように拍手とリクエストを送る。
私の隣には美しいバイオリニスト。彼女が目配せをしてくる。もう１曲か？
誘われるがまま演奏を続けた。
演奏を終えると実家のピアノ室に戻っていた。ピアノの音ももう出なくなっている。
もしかして…と思い、両親に聞いてみた。
思った通りだ。このピアノ、かつてはジャズクラブで活躍していたものらしい。
それを常連である両親が引き取ったと言う。
そんなピアノが見せた先程の光景はこのピアノの走馬灯と言ったところか…
美しくも楽しい一時だった。
私はピアノに感謝を告げると蓋を締め、そっと眠らせた。