夜の音

私は夜行列車の旅が好きだ。夜行列車にはドラマとロマンがある。小説の受け売りだ。
恋愛物を読めば、夜行列車のラウンジで一夜の出会いに期待したくなる。
推理物を読めば、この密室空間で起こるであろう事件に早くも眉を顰める。
青春物を読めば、古い友を訪ねたくなる。
どれもこれも、静かな夜でしか味わえない少し大人な雰囲気といったところか…
夜行列車の楽しみといえば、駅弁も忘れてはいけない。この時間になると酒飲みが多くなる。
弁当よりつまみ系のメニューが多くなる時間。紅ショウガや山芋を揚げたシンプルなものが途端に美味くなるから不思議だ。旬の魚を塩焼きしたものも捨てがたい。
不快の代名詞である他人の租借音が、この時ばかりは心惑わす魅惑の音源へと早変わり。
夜行列車は目的地だけでなく、日常から非日常へと私を連れて行ってくれる。
そんな食べ物の感想を書くペンの音を響き渡らせば、私も旅行作家の仲間入りである。