夜の音

山の夜は都会の夜より喧しい。
虫達が騒ぎ、獣の遠吠えまで聞こえてくる。
虫や獣に文句を言うわけにもいかず、私の初キャンプは眠れぬ夜を過ごす最悪なものとなった。
来るんじゃなかった…と後悔する。
空気を吸いにテントの外に出る。真っ暗で何も見えない。スマホで光源を確保する。
その瞬間、山から音が消えた。虫や獣は息を潜め、風も止み木々のこすれる音さえしない。
静寂が耳に痛い。
怖くなり、テントに戻ろうとした私は夜がひび割れる音を聞いた。
何だこの音は？表現する事も、再現する事も出来ない。
その音は、夜が終わり朝日が昇る薄明が訪れる合図だった。
ひび割れ、崩れていく夜空の下からは太陽の光。その光景に、音なんてないものだと思っていた。
だが、耳に意識を集中させればはっきりと聞こえる。夜が終わりを告げる音。虫の声に混じる太陽の産声を。
その音の虜となった私。今では山の眠れぬ夜を楽しめるようになった。