博士のエゴ

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N博士はついに不老不死の薬を完成させた。
長年苦楽を共にした学者仲間や助手達はその成果を称えた。
「さあ博士。どうぞ先にその恩恵にあずかってください」
「いや、私は飲まなくてもいいんだ」
皆がどよめく。「できれば、皆がこれを飲んでくれないか。だが無理にとは言わない」
予想外の博士の提案に皆戸惑うが、1人が手を上げ飲み干すと我先にとほとんどの者が飲んだ。
ありがとうと言う博士に「なぜこの薬の開発を始めたのですか」と唯一飲まなかった若い助手が聞いた。
「私のエゴだ。出来ればRに飲ませたかった」と先立たれた妻の名前を出した。

年月は流れ博士の葬儀の後、ある学者は1人の男を呼び止めた。
「なぜ君はあの時薬を飲まなかったのだ」
歳を重ねたかつての若い助手は言った。「…耐えられないからです」
「ん。何がだ」
男は自分より見た目が若くなった上司に向きなおった。

「愛する人に先立たれる悲しみにです」
SF
公開:23/08/28 23:29
更新:23/08/29 05:42

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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