蛍の鳴く夏

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例年になく暑かったある夏を境に、世界中の蛍が光るのをやめた。
いかに蛍の習性とは言え、夜通し尻に火を灯すには暑過ぎたし、人間が隅々まで電気を灯した地上の夜は、自身の小さな光などかき消すほどに眩しかったのだ。

光るのをやめた蛍は、蝉の様に声で仲間と交信する様になった。
蛍が鳴けばさぞ涼やかで美しかろうと人間は期待したが、暑さと強い光に疲れた蛍の声はか細く震え、蚊の鳴く様に弱々しかった。
丁度寝入りばなにプ~ン、プ~ンとやるものだから、人間は次第に蛍を邪魔にし、あるいは蚊と間違えて駆除していった。
元々数の少なかった蛍はたちまち姿を消し、一匹残らず死に絶えてしまった。

蛍が消えて何年目かの夏、入れ替わる様に蚊が光り始めた。
幻想的な光を放ちながら、音もなく忍び寄って血を吸う蚊の大群は、強力な伝染病を世界中にばらまいた。
そして、蚊が光り始めて数年後の夏、人間も一人残らず死に絶えてしまった。
ファンタジー
公開:23/08/21 14:16
月の音色 月の文学館 テーマ:夜の音

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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