夜の音

夜中、鳥の羽ばたきに似た音に目を覚ます。
ベッドから身を起こし、カーテンの隙間から外を見る。
隣に住む吸血鬼の少年が必死に空を飛ぶ練習をしていた。
吸血鬼と言えば優雅に空を飛ぶイメージがあるが、あれは練習の賜物であるらしい。
上手く飛べない少年はぽっちゃり体系。羽根よりお腹の肉がよく動く。
私は愛用の箒を手に外に出た。
箒にまたがりふわりと浮くと、少年を連れて夜間飛行へと出かける。
高いところが苦手なのか、私の腰にギュッとしがみつく少年。これが初めてではないのにまだ怖いようだ。
少年を怖がらせないよう、ゆっくりと飛び、空を飛ぶ感覚を教えてあげた。

あれから１０年。少年は青年へと成長し、優雅に空を飛べる吸血鬼になった。
空を飛ぶ彼の足元には空飛ぶ箒。結局彼は今も自身の翼で空を飛ぶ事は出来ない。
だが魔女の私から空を飛ぶ感覚を学んだ彼。
今夜も私をデートに誘う為、窓をコンコンと叩いてくる。