夜の音

母は毎晩手紙を書いていました。
万年筆でさらさらと手紙を書く姿は子どもの頃からの憧れでした。
幼い私は毎晩、母の奏でる万年筆の音を子守歌に眠りについていました。
誰に手紙を書いているのだろう？聞いてみたのは１０月の夜中です。
「これはね、サンタクロースさんに書いているんよ」
驚きました。母はサンタクロースと手紙をやりとりしていたのです。
「サンタクロースさんだけやないよ。新しい年を迎える前に神さんにもお礼の手紙、書いちゃらな悪いやろ？」
手紙を見せてもらいました。それは本当にサンタクロースや神様に向けて書かれたものでした。
母は私の手を引き、箪笥の小さな引き戸を指さしました。
「ここ、手紙入れてみぃ」
言われた通り手紙を入れます。引き戸を締め、もう一度開けると手紙はなくなっていました。
「届いた証拠やよ」
夢みたい話でしょう？
おかげで私も母と同じように毎晩手紙を書く事に夢中になりました。