夜の音

普段、人間として暮らしている私は狼男である。
満月を見ると人狼に変身してしまう狼男だが、盲目の私は満月を見る事ができない。
それで狼男と言えるのかって？ええ、言えますよ。私、満月を見なくても人狼に変身できるんです。
狼男って、満月を見るだけで変身できるって思われがちですけど実はそうじゃないんです。
満月を視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚で感じて初めて完璧な人狼になれるんです。
私の場合、視覚が抜けているので完璧な人狼にはなれません。
それどころか目が見えない分、夜になると誤って中途半端な人狼に変身してしまいます。
鼻が夜を嗅ぎ取り、肌が月の光を感じ、月が私に「変身しろ」と囁く声に抗えなくなるんです。
この時の私は人の身体に狼の身体能力を宿している状態です。
夜は目が見えない私に、鋭くなった感覚が視覚以上の情報を与えてくれます。
映画で有名な座頭市。彼もまた、私と同じような狼男であったそうです。