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工房にオレンジ色の灯りが灯る。

所々に雨雲みたいな染みの浮かぶ茜色のエプロンをつけて、師匠は大きな欠伸をしつつインクの瓶を選んでいる。そんないつも通りの光景を横目に、師匠の一番弟子である僕は、大きな窓枠を師匠のお気に入りの椅子の前にガタリとセットして、朝露を集めたバケツをサイドテーブルに置く。バケツの中の朝露がトプンと跳ねる。
やがて、師匠はカチャカチャと音をたてながら、バリエーション豊かなオレンジ色の瓶の数々を持ってきて、僕の用意した窓枠の前にゆったりと座り、琥珀色の絵筆をとる。
朝露にチャプンと絵筆をよく浸し、窓枠の中に濡れた絵筆を丁寧に滑らせると、水晶の様な膜が出来上がる。朝日の様に輝くそれに「これだと明る過ぎるが、これだとやや暗い…」とぶつぶつ零しつつ、師匠はオレンジ色のインクを絵筆にのせ、窓枠の中へポタリと落として伸ばしていく。
こうして今日も、美しい夜明けの空は完成するのだ。
その他
公開:23/08/21 20:38

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

 

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