夜色を磨る

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いつからそうしていたのだろう。
凛とした横顔の美しい女性が、仄かな月明かりの差し込む私の部屋で墨を磨っている。
細長く白い指を揃え、丁寧に墨を硯に滑らす姿は幻影のようだ。
規則正しい柔らかな音に揺り起こされた私は、ぼんやりしながら尋ねた。

「…何をしているのですか?」

「ごめんなさい…起こしてしまいましたね。心の闇を磨って溶かしているのですよ。」

手は止めず、女性は静かに微笑み答えた。

「人は皆、不安や悩みを抱えております。それらが心に影を重ね、星も見えぬ程に深い闇となる事も。私は人々が眠っている間に闇を集め、月明かりと混ぜ合わせながら夜を塗る為の汁を磨っているのです。安心して誰もが心を委ねられる、優しい夜を描く為の。」

嫌な事があっても、眠ると心がスッキリするのはこの人のおかげだったのか。
夜色を磨る、子供を寝かしつけるように穏やかな音に誘われ、私は再び夢へと沈んでいった。
その他
公開:23/08/21 20:28
更新:25/08/11 23:00

ネモフィラ( 更新停止 )

読んだ人に笑顔になってもらいたいという想いから投稿し始めましたが、私の文章ではそういったものが届けられないのだろうなぁと気づかされました。

今は書こうと思うとただただ悲しくなるだけなので、もう投稿することはないかもしれません。
アカウントは残しますがこれ以降浮上することもないかと思います。

短い間でしたが今までありがとうございました!
たくさん学ばせて頂きました。
お元気で。

2025.9

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