ベビーカーを押す老婆

ベビーカーを押して電車に乗る。座席に腰を下ろすとサラリーマン風の男が私の前に立ち文句を言ってきた。
「人の迷惑考えろ！邪魔だろうがよ！」
男の大声に驚いた赤ちゃんが泣き始める。
「おいおい！泣かすなよ！うるせぇだろ！そもそも何でお前が優先席座ってんだ！？優先席に座れるのは仕事を頑張っている俺らだろうがよ！」
周りを見れば空席はいくつもある。この男はストレスのはけ口に私を選んだんだと理解した。
「早くガキを泣き止ませろよ！ほら！ほら！」
怒鳴る男に困っていると、ベビーカーを押す老婆が男の肩を叩いた。
「こりゃ元気な男の子だぁ」
老婆が男をベビーカーの中に押し倒す。すると男の身体が縮み、赤ん坊になった。
老婆は私に会釈すると、泣き叫ぶ赤ん坊の入ったベビーカーを押して車両に移動する。
赤ん坊になった男が私に手を伸ばす。
『助けてくれ！』
そう聞こえる気がするも、私は迷惑そうに顔を顰め、見送った。