夏の尻尾

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石段を登り切って振り返れば、私の町だ。
夏空が暮れ始め、星がひとつ灯った。
蝉の声が、日々遠くなっている。
去る夏の現在地は、それで計測できそうだって思う。

日々階段ダッシュを続けている。
そこに毎日、猫がくる。
この夏は、履き潰したスニーカーよりも一緒にいたかもしれない。

そう、スニーカー。
私は姉と違ってヒールを履かない。
アクセも趣味じゃなく、日焼け止めも塗り忘れる。
姉は春に家を去り、皆その話を避けたまま、夏が過ぎようとしている。

夕暮れの石段を、また駆け登るために下っていく。

いつも猫のいる所に何か落ちていて、姉が好んでいたのと同じチャームだった。
横道を覗くと、猫の尻尾が垣根の下へ消えるところで、夕ご飯の匂いが、路地の風に混じって吹いてきた。

猫の尻尾が、暮らしや、匂いを、風にかき混ぜるように、家々の窓で揺れていたらいい。
そんなことを思いながら、道端に座り込んだ。
公開:23/08/14 00:46
更新:23/10/01 11:35

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