一枚、埋める

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 私の目の前には、白紙の原稿用紙がある。ああ。何から書き始めよう。
 大体、推理作家である私にエッセイの依頼など、お門違いというものだ。
 そう伝え断ったのだが、担当編集は「まあまあ、先生。とりあえず、お試しで一枚! 一枚だけ!」などと言い、引き下がらなかった。
 ……仕方がない。一枚だけだぞ、本当に。
 しかし困った。一体、何を書こう。伝えたいことなど、特にない。
 大体、言いたいことがあるなら、作品で語るのが作家というものではないのか。だが、私もプロだ。
 四百字埋めることなど、造作もない。内容? ええい、そんなものは二の次だ、二の次。何しろ、〆切は三十分後なのだ。今は、間に合わせることだけを考えよう。
 まずは自己紹介。私は乱歩賞を受賞して三年、新進気鋭 の推理作家である。
 何、自分で言うな? 本当のことだ。謙遜しても始まるまい。
 大体、昨今の作家の扱いときたら──あ。埋まった。
その他
公開:23/08/10 21:00
コミカル

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