両腕のない兵隊さん

原爆で焼かれた家の前に一人の兵隊さんが立っていました。
「君、あの時計の針を少し進めてくれないか？」
私に声をかけてきた兵隊さん。自分でやればいいのに…と思うも、不自然にはためく兵隊さんの長袖を見てその理由を察しました。
兵隊さんには両腕がありませんでした。だから戦場から戻ってきたのでしょうか？時計の針を進めたらまた戦いが始まるのでしょうか？
兵隊さんは首を横に振ります。
「もう戦争は終わったんだ。時を止めてはいけない。歩き出さなくてはいけない」
私は時計の針を動かしました。するとチクタクと針は歩き出します。
それを見て微笑む兵隊さん。時計の針と同じように歩き出しました。どこに行くの？
「終わった戦争をまだ続けようとする奴らを止めに行くのさ。私の両腕では平和を取りこぼしてしまう…だからせめて、平和の為に戦いに行くんだ」
両腕のない兵隊さんは戦争を止める為に止まる事なく歩き続けてくれました。