落としもの

死者は三途の川を渡ると生まれ変われる。しかし、三途の川を渡るには船賃である六文銭が必要だ。
時々、泳いで渡ろうとする者もいるがそんな者は激流に飲まれ、地獄へと流されてしまう。
六文銭を手に入れるには働くしかない。だがここに働き者なんていない。誰かから六文銭を奪う事しか考えていない。
目の前を子どもが泣きじゃくりながら歩いていく。きっと六文銭を奪われたのだろう。
俺は子どもと逆方向に歩き出す。すぐに六文銭を手に船を待つ男を見かけた。
俺は男にぶつかると六文銭を落とさせた。
急ぎ拾う男。焦り過ぎて俺なんて見ちゃいねぇ。その拾った六文銭が俺の作った偽物である事にも気付いちゃいねぇ。本物は俺の手の中だ。
俺はその場を足早に去ると、今も泣きじゃくる子どもに本物の六文銭を渡してやる。
その子は無事に船に乗ると生まれ変わった。その様子を俺は眺める。
そして視界の端に肩を落とした男の姿を見てはせせら笑う。