景色を写す羽織

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彼は羽織の表面を広げ私に見せた。
そこには二匹の蝶がいた。すると病室に風が入り込み羽織を煽ぐと蝶は羽織から飛び出し窓の外へ逃げてしまった。
「ああ、せっかく写したのに翻っちゃったか」
この羽織は彼の家に伝わるもので、景色を羽織で遮ると模様として写し出される。
「足、大丈夫?」
もう痛くはない。初めて羽織を見せられた時、驚いて階段から落ちた。大した怪我にはならなかったが今日の花火大会を見に行くのは難しいだろう。
せめて音だけでも聞いて雰囲気を楽しもうと思う。そう彼に告げると病室を出て行ってしまった。
夜、窓から漏れる人々の歓声と花火の音を聞きながら天井を見つめた。やがて音は止み静寂が訪れた。
そこへ彼が入ってきた。窓を閉め羽織を煽ぐと花火が部屋いっぱいに写し出された。
諦めた花火。彼と見たかった花火。私の夢を彼が叶えてくれた。
「綺麗だろ。早く元気になれよ」
なんだかこそばゆくって煙臭い。
ファンタジー
公開:23/08/09 20:00

社 真秀

「自分の想う世界観を広げたい、形にしたい」という気持ちを抑えきれず投稿を始めました。
駆け出しですが、少しずつでも伝えられるよう努めますのでどうぞよろしくお願いします。
アドバイス、ご指摘いただけますと幸いです。


 

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