蝉

蝉がいつも鳴くのに、今日は静かだ。
鳴き声は暑苦しく煩いとも思うが、声が聞こえないのは淋しい。雨も降らず晴天なのに。

自分が小さな頃は、同時に何十匹もの蝉の大合唱が真夏を知らせ、網を持った子供達が捕らえようと喜々としていた。
時には蝉の幼虫が幹に登っているのを見付けて、家の中の蚊帳に止まらせ羽化するのを観るのも楽しみだった。宙返りして、まるでサーカスの様に思えた。
今時は網を持った子供達の姿も、とんと見受けない。
きっと涼しく冷房の効いた部屋で、ゲームでも楽しんでいるのだろうか。

そんな時ガサッと音がしたのでベランダを見ると、一匹の蝉がこちらをジート見ている。
どうしたのかと窓を開けると逃げるどころか、喜んで中に飛び込んで来た。
蝉曰く、外は暑くて鳴いてはおられない。涼しい部屋に入れて欲しいのだと頼む。地中に何10年も居てやっと地上に出れば、この熱さ、耐えられない、助けてよと。