石の箱

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彼は若いくせに灰色のスーツを着て毎朝早くに出かけて毎夜遅く帰ってくる。若いくせに古びた鞄をぶらさげての帰り道、道の角に立ち止まって鞄から石をひとつ取り出して道に落とす。毎日棄てて行く石が道の角に積もってゆく。何のために?石を棄てる意味、理由を聞こうにも、未明に出かけて深夜に帰る彼と町内の人が話をする機会はまずない。一人住まいの彼の家は終日ひっそりとしている。
積まれた石は日々数を増やす。誰かがゴミに出そうとしたが、量が多く有料の粗大ゴミ扱いで、出費を申し出る人はいない。石を棄てる場所にプラスチック容器を置いた人がいたが、増えた石の重みで容器は壊れ、放置された石はまた日々増えていった。
ある日、誰かが道にコンクリート製の箱を設置した。コンクリートの箱はたっぷりと容積があって、棄てた石がいっぱいになるにはまだまだ余裕がある。これであと一年は彼が石を棄てる行為を思いわずらうことはないだろう。
その他
公開:23/08/08 09:22

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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