バスリサイタル

私の趣味は一人カラオケ。今夜は興がのって二時間も歌った。カラオケ店の部屋を出ると初老の男が立っている。「失礼ですが、立ち聞きしました。別の所で歌ってください」「歌手じゃないよ」「プロはだしです。ぜひ」男に連れられてゆくと通りに観光バスが停まっている。「ここです」と男は帽子をかぶって「運転手です。バスのお客様が素敵な歌を所望しています」と私の背中を押す。バスに乗るとミラーボールが回っている。
「都内歓楽コース出発！」バスが動き出すと同時にイントロが鳴る。演歌だ。こぶしをきかせて歌い上げると、次はフォーク。スラスラと歌い込む。拍手喝采。
さらに数曲歌うとバスが停まり運転手が私に耳打ちする「運転を代わってください」「運転免許はないよ」「自動運転です」と彼は私に帽子をかぶせた。仕方なく運転席に座るとバスは動いてイントロが鳴る。運転手が「お待たせしました。私の十八番を熱唱します！」拍手が鳴り響いた。