大樹の筆箱

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 いつもの、学校からの帰り道。ふと道の途中、「倉敷文房具」という知らない店があることに気づく。私は、家で課題を待たせる身でありながら、興味に手をひかれて店に入って行った。そして目に止まったのは木製の筆箱。
「ゴホッ、ゴホッ、いらっしゃい」
どうやら咳をする、この老人が店主らしい。
「それは、病に冒されたどこかの神木が、学業成就と病気平癒を祈って、筆箱にされたものだよ。買っていくかい?」
 私は、躊躇いなくうなづいた。
 2年が経った。受験が終わりひと段落し暇な私は、共に駆け抜けた筆箱を眺めた。
 直後、腹に落ちるものがあった。この木は、病に冒された身にも関わらず、自分に残されたものを、次の誰かに託したのだ。
 私は、即座に保険証を取り出して、死亡時の臓器提供に関する同意に丸をした。
 それから20年後のことだ。1人の、肺に病気を持つ青年が、臓器提供で助かったのは。その青年、性を倉敷という。
青春
公開:23/08/01 23:05

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