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「あの花火、咲かないね。」

夜空の蕾を指差し、娘が言った。

「そうね。月光とお願いの量が足りないのかしら?」

先日、お隣さんから花火の種を貰った。普通の打ち上げ花火なら、夜空に大輪の花を咲かせるのは一瞬だが、この種から育てた花火は数日間夜空へ美しい花を輝かせる。

育て方も簡単。支柱の様に連なる天の川へ「綺麗に咲きますように」と願いを込めつつ、花火の種を投げるだけ。毎晩お願いを欠かさずにあげていると芽を出し、朝顔みたいに天の川へ絡みついて成長する。成長に必要な月光の量だけは調節できないので、そこは天に任せるしかない。

どの花火も「ドーン」と大輪の花を夜に咲かせ、朝になると萎むを繰り返しているが、どういう理由か一つだけずっと蕾のままだ。

夏が終わり、秋を通り、大晦日。
年越し蕎麦を食べていると「ドーン」という音がした。窓を開けると、あの蕾が大輪の花を咲かせ、新年の訪れを祝っていた。
その他
公開:23/08/01 10:20
更新:23/08/01 10:19
#花火の日

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

いつもご訪問ありがとうございます!
元:ネモフィラは咲うです。大原さやかさんのラジオ「月の音色」では、ペンネーム:花笑みの旅人として投稿しております。

日常に寄り添い、読んだ人がほんのすこ~しだけ前向きになれるような物語を書けたらいいなぁと思っている街灯の明かりをこよなく愛す人です。

最近1番幸せだなぁと感じるのはゆっくり眠っている時。その次がお散歩してる時かな?

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