6
2

「あの花火、咲かないね。」

夜空の蕾を指差し、娘が言った。

「そうね。月光とお願いの量が足りないのかしら?」

先日、お隣さんから花火の種を貰った。普通の打ち上げ花火なら、夜空に大輪の花を咲かせるのは一瞬だが、この種から育てた花火は数日間夜空へ美しい花を輝かせる。

育て方も簡単。支柱の様に連なる天の川へ「綺麗に咲きますように」と願いを込めつつ、花火の種を投げるだけ。毎晩お願いを欠かさずにあげていると芽を出し、朝顔みたいに天の川へ絡みついて成長する。成長に必要な月光の量だけは調節できないので、そこは天に任せるしかない。

どの花火も「ドーン」と大輪の花を夜に咲かせ、朝になると萎むを繰り返しているが、どういう理由か一つだけずっと蕾のままだ。

夏が終わり、秋を通り、大晦日。
年越し蕎麦を食べていると「ドーン」という音がした。窓を開けると、あの蕾が大輪の花を咲かせ、新年の訪れを祝っていた。
その他
公開:23/08/01 10:20
更新:23/08/01 10:19
#花火の日

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

少し早いですが、よいお年を!

 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容