落としもの

彼は私を映画館デートによく誘ってくれる。
だけど彼は映画が始まるとすぐに寝てしまう。仕事で疲れているのだろう…ちょっと残念だけど寝かせてあげよう。

僕は彼女を映画館デートに誘っては映画が始まるとすぐに眠る。
僕が瞼を落とすと彼女は決まって映画がどんな内容だったかを教えてくれるんだ。
その声を独占できる時間が何よりも楽しみだった。

彼に映画の内容を説明する。これは小説家を目指す私にとっていい訓練となった。
どう表現すれが伝わりやすいか、それを考えて口にする。言葉にするか、文字にするかの違い。
彼のおかげで私の表現能力は間違いなく上がった。

彼女の新作に目を落とす。これなら書籍化も行けそうだ。
落選となった彼女の小説を拾い読んだあの日から、編集者の僕は彼女と公私共に二人三脚で歩いていこうと決めていた。
これはそんな決意の表れだ。

彼女が自身の薬指に目を落とす。喜びの涙がいくつも落ちた。